INTERVIEW

2018.4.17UP|インタビュー

インタビュー 株式会社泉州アグリ代表・辻野奨悟氏

泉佐野アグリカレッジの運営団体の1つであり、泉佐野での6次産業体験の体験先でもある泉州アグリ。ここでは野菜の生産、販売、加工、堆肥づくりを行っています。今回はその泉州アグリ代表の辻野氏にインタビューを行いました。

株式会社泉州アグリ代表・辻野奨悟氏株式会社泉州アグリ代表・辻野奨悟氏

泉州アグリはどういった事をされている企業なのでしょうか?

日根野のエリアに4町ほどの畑があって、そこで農業をやっています。今、部門は大きく「生産」「加工」「販売」の6次産業と「堆肥づくり」の4つに分かれています。泉州野菜での6次産業化と、アグリビジネスを通した人づくりを中心に行なっています。

そもそもどのような経緯で始まったのですか?

はじめは農業をしていた訳ではなくて、就労支援なんです。2001年におおさか若者就労支援機構っていう若年無業者を対象とした就労支援をはじめて、2005年から合宿型就労支援の若者自立塾をやって…その時は農業らしい農業はやってないんですけど、園芸福祉っていう、園芸と福祉を混ぜた、高齢者でもできるような、ちょっとした家庭菜園程度のことをやってました。

その後色々あって若者自立塾の事業がなくなったんですが、その時に農業を通じた就労支援をはじめるキッカケになったのが「百姓」という言葉で。農業って昔の言い方で百姓なんですけど、それは「百の商売ができる」、農家の人は何でもできるってことだったんですね。大工仕事ができたりとか、自分で作ったものを販売したりとか、それで百姓って呼ばれていた。
就労支援の対象となる方は色々な経験が少ないことが多いので、百姓と呼ばれるくらい様々な経験ができる農業の分野で、就労支援をやろうってなったんです。

それで2010年にアグリ部門を作ったんですが、その中で、国の事業などの制度ばかりに頼っていたら先がないということで、自分たちで食べていけるようにしようと2015年の2月に株式会社泉州アグリを作りました。

泉州アグリの事務所は日根野にあります泉州アグリの事務所は日根野にあります

就労支援から農業という違った分野に、どうやって進んでいったのでしょうか。

はじめは農地も、経験も知識もない状態からでした。その時に役所とかJAとか色んな所に話を聞きにいったんですが、その中で農家さんを紹介してもらえたんです。やっぱり余所もんやから、なかなか受け入れてくれる人っていうのは少なかったんですけど、いい方に巡り会えて。
それで「何でもいいので何か手伝わせてください。報酬も何もいらないです。その代わりに知識をください。」っていう所から始まって、段々と認めていただいて、使ってない畑貸してあげるから何か作ってみなって言ってもらえたのがスタートです。

生産以外の部分にはどのように広げていったんですか?

販売については、この辺りの直売所もあるんですけど、やっぱり単価が低いんです。今って白菜でも600円〜700円するでしょう?ここの直売所だと200円とかで買える。
それではなかなかやっていけないと、大阪市内のマルシェに参加を始めました。淀屋橋やグランフロント、天王寺の駅のマルシェとか。その時にたまたま南海電鉄さんが来ていて、お話をしていくうちに面白そうなことしてるねって言ってくれて、南海なんば駅の2階中央改札内に空いてる店舗があるから、そこでお店やってみないかって。それで2015年の6月に野菜の直売所「Vege Sta.(ベジステ)」をオープンしました。
それから南海さんとの繋がりができて、今は「くらし菜園」っていう菜園事業や沿線マルシェなど、タッグを組んで色々なことをさせていただいてます。

とても色々なことをされていますね。

そうですね。でも僕らが言えることは、ほとんど自分たちの力じゃないです。周りの力、助けがあって、今生き残ってるっていうか。農家さんがいなかったら農業できてなかったし、南海さんがいなかったら販売できてなかったし、青森や加賀の事業がなかったら青森県や石川県との繋がりもなかった。本当に多くの人に助けられています。

Vege Sta.(ベジステ)での販売の様子Vege Sta.(ベジステ)での販売の様子

ここからは6次産業体験のことをお伺いしたいのですが、どのような方が体験に来られるのでしょうか?

性別は男女半々くらい。年齢で言うと今まで来た中で一番下が高校生で、一番上が60代の方。その方はちょうど定年を迎えて家庭菜園をやろうとしていて、その前にどういうことをしたらいいかっていうのでうちに体験に来られていましたね。
他にも、会社で働いていて転職を考えてる人もいれば、農機具屋さんとか企業の方が来たり、あとは飲食店に野菜を卸しているので、シェフの方が来たりとか。色んな思いを持っている方が来られますね。
もちろん就労支援の方面でいらっしゃる方もたくさんいます。なので、農業の関連で来られる方と就労支援の関連で来られる方、半々くらいですかね。

就労支援の関連で来られた方の作業も、体験内容としては同じなのですか?

それはその方の希望や状況に合わせて、来られた方と話をしながらそれぞれに合わせた内容にします。例えばニートや引きこもりと言われる方々であれば、最初から1日作業というのは大変なので、まずは屋内での作業を1時間だけやってみようとか、じゃあ次は慣れてきたんで外の作業をやってみようとかって感じで。
そういった方々には、まず経験をしてもらって、そこでの「気付き」を大切にしてもらいたいと思っています。気付きっていうのは、例えば「外の作業が好きだと思って農作業をやってみたけど、やってみたらちょっと違うかなぁ」とか「人と喋るのは苦手やから販売はあまり好きじゃないと思ってたけど、やってみたら意外とできるやん」とか、そういう気付き。
先ほども話をしましたが、農業って色んなことができる。だから、これがダメならじゃあこっちをやってみる、これも良かったけどこっちもやってみようとか、そこから何かのキッカケが生まれたらいいなと思っています。

その人に合わせた体験が可能なんですね。

はい。例えば就農を目指している方であれば、何をどういう風にやりたいかが決まっているなら、うちでできる範囲でこういう風に野菜を作ってるよっていう説明や体験をすることができます。体験自体も何度来ていただいても大丈夫なので、1つの作物の植え付けから収穫までを経験することの可能ですし。来られる方は本当に様々なので、本格的にやりたい方も、ちょっとだけ農業がどんな感じか見てみたい方も、どなたでも歓迎してます。

夕暮れ時の畑夕暮れ時の畑

これからのビジョンや目標を教えてください。

農家さんというと50年とか60年やってる人が多いので、それに比べると僕らはまだ8年、ペーペーの段階なので、まずは土台を固める。そのためには生産力をつける。自分たちが外に出しても恥ずかしくないような野菜作りをしていくっていうのが、まずやらないといけないミッションですね。

あとは何かブランドを作りたいって思ってます。せっかく弘前市や加賀市と繋がってるので、その果物とこっちの野菜を掛け合わせてなにかできないかとか。単純にこっちの野菜のブランドを作ってもいいんですけど、どうせならそういうことができたら面白いし、地域の活性化にも繋がるんじゃないかとか。 色んなことができると思うんです、色んな人や事と繋がっていたら。

それで最終的には、この辺りの畑を使って、農家レストランとか、人が集まれるような居場所とか、旅館みたいな泊まれるところとか…農業を中心にした人づくり、街づくりができたらいいなと思っています。「野菜を大切に、人を大切に、可能性を大切に」っていうのが、うちの社訓みたいなものなんですけど、野菜、農業を通じていろんな人や物事と繋がって、広げていきたいですね。
でもまずは土台を固めないと。言ってるだけやったら絵空事なので(笑)。 階段は一気に下から上までは上がれないですからね。一歩一歩、上を目指していきたいと思います。

収穫作業中の辻野氏

「野菜を大切に、人を大切に、可能性を大切に」。この言葉には、泉州アグリの想いが詰まっています。農業と就労支援、この2つが合わさることで見えてくる未来が楽しみです。